大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(う)957号 判決 1982年11月04日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一三〇日を原判示第二ないし第五の罪の刑に算入する。

理由

所論は、原判示第五の事実について法令適用の誤りを主張するものであつて、要するに、原判決は、被告人が強盗に着手したのち強姦の意思を生じ被害女性に対しその意図で暴行を加えたが、いずれもその目的を遂げず、その際右暴行により同女に傷害を負わせた所為につき、強盗致傷と強盗強姦未遂の二罪の成立を認めて両者を観念的競合の関係にあるとして処断しているが、このような場合には強盗強姦未遂の一罪のみが成立すると解すべきであるから、この点において原判決には法令適用の誤りがあり、原判決が懲役六年という重い刑を科したのは専ら強盗強姦未遂の一罪によつて処断しなかつた結果によるのであるから、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。

そこで、原審記録を調査して所論の当否を検討するのに、原判決が右所為に対する法令の適用において、「強盗致傷の点は同法(刑法)二四〇条前段に、強盗強姦未遂の点は同法二四三条、二四一条前段にそれぞれ該当するところ、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合」であると判示していることは所論指摘のとおりであるところ、刑法が強盗罪、強姦罪とは別個の犯罪類型として強盗強姦罪の規定を設け、その中でこの犯行によつて生じた致死の点のみを重視してこれを特に重く処罰する定めをおいていることにかんがみると、単に傷害の結果が発生したにすぎない場合には、同罪の法定刑の範囲内でまかなおうとした趣旨と解せられるから、本件所為に対する擬律としては、同法二四三条、二四一条前段のみを適用すべきものと解するのが相当である(大審院昭和八年六月二九日判決・刑集一二巻一二六九頁、東京高裁昭和四五年二月五日判決・高刑集二三巻一号一〇三頁参照)。してみると、原判決にはこの点において法令適用の誤りがあるというべきであるが、右のように解してこれを強盗強姦未遂の単純一罪とした場合と原判決のように右罪のほか強盗致傷罪の成立をも認めて、両者は科刑上の一罪の関係にあるとして同罪所定の刑をもつて処断した場合とでは、法定刑に差異がないばかりか、強盗強姦未遂罪の所定刑中有期懲役刑を選択し、刑法四五条前段の併合罪の関係にある各罪につき、原判決と同様の法令を適用して、累犯の加重と最も重い右強盗強姦未遂罪につき定めた刑につき併合罪の加重をしたうえ、犯情を考慮し未遂減軽又は酌量減軽のいずれかにより一回の減軽をするのを相当と認めるべき本件においては(原判決の宣告刑は懲役六年である。)、処断刑においても両者の間に差異を生じない。なお、所論は、原判決が重い刑を科したのは専ら法令適用の誤りに由来するものと主張するが、強盗強姦未遂の単純一罪とする場合にも、その機会に発生した傷害の点は当然同罪の量刑評価の対象となり、犯行の実体が同一である以上、この点の犯罪構成要件的評価や罪数評価のいかんにより異なつた刑を言い渡すべき蓋然性は認められないのである。してみれば、原判決の右のような法令適用の誤りはいまだ判決に影響を及ぼすものではなく、原判決を破棄する理由とはならない。論旨は結局において理由がない。<以下、省略>

(寺澤榮 荒木勝己 尾﨑俊信)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例